フタル酸エステル分析について

①フタル酸エステル類
フタル酸エステル類は、フタル酸C6H4(COOH)2とアルコールが結合して生成されるエステルの総称です。アルコールの種類は極めて多いため、フタル酸エステル類の種類も非常に多くなっています。
高級アルコール系のフタル酸エステルは主に樹脂の可塑剤や成形助剤として多く使用されて来ましたが、ヒトや動物のホルモンに影響を与える内分泌攪乱物質である疑いが強まり、欧州を中心に使用規制の動きが進んでいます。

生産量・使用量が多く、かつ各国で規制されている代表的なフタル酸エステル類を、略号と用途と共に以下に示します。

フタル酸ビス(2-エチルヘキシル) DEHP 汎用可塑剤(電線被覆、壁紙、血液バッグ)
フタル酸ジブチル DBP 加工性向上添加剤 (塗料、接着剤)
フタル酸ブチルベンジル BBP 加工性向上添加剤 (接着剤、シーリング材)
フタル酸ジイソノニル DINP 汎用可塑剤 (電線被覆、壁紙、フィルム)
フタル酸ジイソデシル DIDP 低揮発性可塑剤、絶縁性改良添加剤(耐熱電線、合成皮革)
フタル酸ジノルマルオクチル DNOP 低揮発性可塑剤 (電線被覆、フィルム)

②フタル酸エステル類の有害性と各国の規制

高濃度のフタル酸エステル類に人が曝露された場合、一般的には眼や咽喉の痛みを発症します。
その他の有害性としては、母親の体内のDEHP量と、その母親が出産した男性幼児の生殖器発育不全の間に相関があるとの研究結果が2009年に米国で公表されています。女児の初潮が早まるとの報告もあります。動物実験で白血病を発症したとの報告も存在します。
また、欧州化学機関(ECHA)は、DBP、DEHP、BBPの三物質を「ヒトの生殖能力を損なうことがあるとみなされるべき物質で、十分なデータがある」として、2008年にREACH規則の高懸念物質候補リスト(SVHC)に記載しました。その後、2014年6月までに、さらに10種類のフタル酸エステル類がSVHCリストに追加されました。その追加分の一覧を以下に示します。

・フタル酸ジイソブチル(DIBP)
・1,2- ベンゼンカルボン酸、炭素数7-11の分岐および直鎖アルキルエステル類
フタル酸ヘプチルノニルウンデシル(DHNUP)
・ 1,2-ベンゼンジカルボン酸、炭素数7の側鎖炭化水素を主成分とする炭素数6~8
のフタル酸エステル類、フタル酸ジ-i-ヘプチル (DIHP)
・ フタル酸 ビス(2-メトキシエチル)
・ フタル酸-n -ペンチルイソペンチル
・ フタル酸ジペンチル(直鎖・分枝)(DPP)
・ フタル酸ジイソペンチル(DIPP)
・ フタル酸ジペンチル(DPP)
・ フタル酸ジヘキシル(DHP)
・ 1,2-ベンゼンジカルボン酸、ジヘキシルエステル、分岐および直鎖

SVHCリスト中の物質を一定量を越えて使用する場合には、EU当局への届出義務と使用者に対する情報の提供義務が発生します。
さらに、EU欧州連合が定める電子・電気機器における特定有害物質の使用制限であるRoHS指令でも、最近、DEHP、BBP、DBP、DIBPの四物質が特定有害物質に追加指定されました。2019年7月より、これら四物質の電子・電気機器での使用制限が開始される予定です。

日本国内でのフタル酸エステル類の使用制限は、以下のようになります。

(a)乳幼児向け育児用品・玩具等の用途
この用途での使用制限対象物質はDEHP 、DBP、BBP、 DINP、DIDP、DNOPの六種類です。同様な用途に対する規制は、米国とEUでも既に実施されていますが、2015年現在、米国ではさらに対象物質を増やす動きがあります。

(b)食品用器具・容器等の用途
厚生労働省は、2002年8月に発令した食発第0802005 号によって、「油脂又は脂肪性食品を含有する食品に接触する器具又は容器包装の原材料」にDEHPを使用することを禁止しました。同じ省令で、おもちゃへのDEHPとDINPの使用も禁止しています。

このほかにもDEHPが塩化ビニールの可塑剤として室内の壁紙・床材などに大量に使用されているなど、現在の家屋の室内空気にはフタル酸エステル類が含まれています。これらの物質が、いわゆる「シックハウス症候群」の原因物質の一部を構成しているのではないかとの疑いがあります。北海道大学の調査によると、フタル酸エステルの濃度が高い家屋の居住者は、ぜんそく、皮膚炎、結膜炎等の症状を訴える比率が高いことが明らかになっています。

日本では、この用途での規制はまだ実施されていませんが、EU域内のデンマークでは2014年に規制案が一時的に提出される(のちに撤回)等、今後の規制を強める動きが見られます。

③対策
自社製品にフタル酸エステル類がどの程度含まれているかを、あらかじめ確認しておく必要があります。このため、いわゆる環境分析の一種としての製品中の化学物質の含有量測定が不可欠であり、測定機を有する外部業者に測定を依頼するのが一般的です。
フタル酸エステル類の詳しい含有量を測定するためには、いわゆる精密分析が必要とされています。その測定機・分析機としては、GC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析) やLC/MS/MS(液体クロマトグラフ タンデム型質量分析)が一般的に用いられています。

 

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