多環芳香族炭化水素(PAHs)について

①多環芳香族炭化水素の特徴とそれに対する規制
多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbon、略称:PAHs)は、有機物の不完全燃焼や熱分解等で生成する化学物質で、ヘテロ原子や置換基を含まない芳香環が縮合した炭化水素の総称です。
PAHsは、油や石炭、乾留液(タール)中の沈殿物、炭素を含む物質(木材、タバコ、脂肪、香など)の不完全燃焼の副生成物であり、ゴム、可塑剤、プラスチックの着色顔料に用いられています。また、PAHsには100以上の化学物質が含まれており、そのうちのいくつかには発癌性、変異原性、催奇形性があることが確認されています。特にベンゾ[a]ピレンについては、最も強い発癌物質の一つであるとされています。その強い毒性のために国際的にも規制が厳しくなってきており、国内外での規制の動きが出ています。以下、各国の規制の現状について述べます。

・EU欧州連合
REACH規則とは、EU欧州連合が人の健康や環境保護のために定めた、化学物質とその使用の管理に関する欧州連合規則のことを言います。欧州連合における規則の内容は各加盟国の国内法に優先するとされています。
REACH規則で有害性が明確と判断された物質は、ECHA(欧州化学機関)によって「認可対象物質」に指定され、特定の分野についてのみ使用が認められ、かつより厳格な管理が求められることになります。
2015 年3 月時点では、PAHs の中の下記8種類がREACH規則での認可対象物質に指定されており、タイヤもしくはタイヤ部品に使われる伸展油での含有量が規制されています。この含有量上限値を超える製品の販売は禁止されています。

(a) ベンゾ[a]ピレン(BaP)
(b) ベンゾ[e]ピレン(BeP)
(c) ベンゾ[a]アントラセン(BaA)
(d) クリセン(CHR)
(e) ベンゾ[b]フルオランテン(BbFA)
(f) ベンゾ[j]フルオランテン(BjFA)
(g) ベンゾ[k]フルオランテン(BkFA)
(h) ジベンゾ[a,h]アントラセン(DBAhA

含有量上限値:BaP が1mg/kg(0.0001 重量%)以下であること、かつ対象PAHsの 合計が10mg/kg(0.001 重量%)以下であること。

なお、2015年12月時点で、REACH規則によるPAHs規制の対象製品は、スポーツ用品、家庭用品、衣服、靴、玩具等の一般消費財へとさらに拡大しました。含有量上限値は用途によって異なりますが、上記8物質のいずれかが0.5~1.0mg/kgを越えないこととされています。

・ドイツ
2008年4月よりGSマーク(ドイツの製品安全認証)の認証を受ける際には、PAHs試験が必須となりました。GSマーク認証に必須となるPAHs試験{試験書番号「ZEK 01-08」}に基づく試験は、2012年7月からに改定版が適用されています。
改定後のPAHs評価対象物質は下記の18物質となっています。

ナフタレン Naphthalenea
アセナフテン Acenaphthene
アセナフチレン Acenaphthylene
フルオレン Fluorene
フェナントレン Phenanthrene
アントラセン Anthracene
フルオランテン Fluoranthene
ピレン Pyrene
クリセン Chrysene
ベンゾ[a]アントラセン Benzo[a]anthracene
ベンゾ[b]フルオランテン Benzo[b]fluoranthene
ベンゾ[j]フルオランテン Benzo[j]fluoranthene
ベンゾ[k] フルオランテン Benzo[k]fluoranthene
ジベンゾ[a,h]アントラセン Dibenzo[a,h]anthracene
ベンゾ[g,h,i]ペリレン Benzo[g,h,i]perylene
ベンゾ[a]ピレン Benzo[a]pyrene
ベンゾ[e]ピレン Benzo[e]pyrene
インデノ[1,2,3-cd]ピレン Indeno[1,2,3-cd]pyrene


・米国
米国環境保護局(EPA) ではTSCA(有害物質管理法:Toxic Substances Control Act、以下TSCA と呼称する)により、化学物質の規制を実施しており、現在、16 種類のPAHs がTSCAのリストに収載されています。また、EPAは下記の7種のPAHsを発癌性物質に分類しています。

ベンズ[a]アントラセン、
ベンゾ[a]ピレン、
ベンゾ[b]フルオランテン、
ベンゾ[k]フルオランテン、
クリセン、
ジベンズ[a,h]アントラセン、
インデノ[1,2,3-cd]ピレン)


②対策
自社製品が各国のPAHs物質の規制に適合しているかどうかを、あらかじめ確認しておく必要があります。このため、いわゆる環境分析の一種としての製品中の化学物質の含有量測定が不可欠であり、測定機を有する外部業者に測定を依頼するのが一般的です。
ドイツのGSマークの認証を受けるためには、18種類のPAHs評価対象物質の分析(18物質分析)が必要となります。
材料中に含まれるPAHs物質の詳しい含有量を測定するためには、いわゆる精密分析が必要とされています。分析方法としては、GC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析)を用いる方法が一般的です。

 

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